西駅で一時間・・・

【昨日から続く】

ちょうど10分後の9時50分に電車が来る。

豊橋駅に何時に着くのか時刻表を探すのだが、

特急だと37分程度かかるとこまでしか読み取れない。

駅員さんに聞こうにも一人で忙しそう。

切符の自販機があるのに、なぜか窓口に5~6人並んでいる。

普通電車だからと思い、サバを読んで一時間、まあ切りのいいところで11時着か・・・。

(病み上がりのオツムの判断が超テキトーだったことに、後で気付くことになるのだが・・・)

携帯電話が使えないので公衆電話から家にかける。

声がガラガラ。

「11時に新幹線のほうに迎えに来てって、お母さんに頼んどいて」

「分かったー!」電話の向こうは元気な息子の声。



「やれやれ、電車に乗ればもう我が家についたようなもんよ。」 

などと気楽なことを思いつつ、キャップ付きの缶コーヒーを買う。 

幸い電車も空いていて座れた。

たまにはのんびりローカルな旅も良いかも、などと思いつつ、

駅で買った飲みかけの缶コーヒーを紙袋から取り出すと、なにやら手が濡れる。

「しまった、蓋をしっかり閉めてなかった・・・」

ユニクロの大きな紙袋の底まで濡れている。

持ち上げると底が抜けそうだ。

なんで、そんな紙袋かって?

妻が父のものと思って積み忘れた長靴を入れてたんです。



そして豊橋駅に到着したのだが、時刻は10時22分。約束の11時まで大分ある。

大急ぎで公衆電話から自宅にかけるのだが、誰も出ない。

娘がアピタの初売りの服を買えと、年末にゴネていた事を思い出した。

そうだ、きっとアピタに出かけて留守なんだ・・・。

ノー天気な私も、そろそろ「今日はツイてないかも・・・」と気付き始めた。



「いつも10分位前に来てくれるから、少し待つか・・・」と気を取り直し、

取りあえず西駅に向かって歩き出す。

小脇に長靴の入った大きなユニクロの手提げ袋を大事そうに抱えて・・・。


書き忘れていたが、袋の色は赤。

無精髭を生やしたまま毛糸のキャプをかぶり、

モコモコのコートと、よれよれのワークパンツ。

どこからどう見ても、変な中年オヤジだ。知ってる人には、絶対会いたくない格好です。



じっと我慢の子で西駅のロータリーで待つ。

来ない・・・・。

11時10分。未だ来ない。だんだん怒れてくる。

「・・・きっと娘がいつものように迷いに迷って決めかねてるに違いない。

それとも、駐車場が混んでるのか、あいつはいつも要領が悪い。」

と娘と妻を心の中で非難する。


それでもと思い公衆電話をかけても、やっぱり留守番電話になっている。

「もう、タクシーで帰っちゃうぞ!!!」といきり立つが、

よく考えたら、家の鍵は妻が荷物と一緒に持ち帰る。

帰っても家の前で待つことになる。こんな格好でか~。

帰れない・・・。


ひょっとすると交通事故にでも巻き込まれたのか。

だとしたら、家に帰らないと。

帰っても鍵は無いから入れないぞ。

近所の人に見られたくないし。

でも、事故だったらどうしよう。

たった一時間前は電話口で息子はあんなに元気だったのに・・・。

もう支離滅裂、思いは千路に乱れまくりである。

袋を抱えてタクシー乗り場へ向かってみたり、

それとも待ち合わせ場所が違うのかと思い、裏の路地をのぞいたりとウロウロ。

完全にクレイジーなおじさんだ。

【つづく】